第20回(2015年)受賞者
Jeffrey I. Gordon 博士
授賞研究テーマ
ヒト腸内細菌の病態生理的意義
ヒトの消化管には腸内細菌叢と呼ばれる数十兆の微生物が存在し、それらの数十万の遺伝子(マイクロバイオーム)が、ヒトのゲノムにコードされていない機能を発揮することが明らかになりつつあります。Gordon教授はゲノムシークエンスによる腸内細菌の分類法を開発し、さらにマウスやヒトの腸内細菌を無菌マウスに移植するというノトバイオート技術を組み合せることで、腸内細菌の健康に対する我々の見方を一変させました。Gordon教授は一卵性双生児などの調査、研究から環境の違いがどのように腸内細菌叢を特徴づけ宿主と相互作用するのかを解明されました。とりわけ2つの全世界的に重要な健康上の問題である肥満および幼年期の栄養不良に、腸内細菌叢が密接に関与すること、さらに腸内細菌が食物の栄養価を規定することも明らかにされました。
Gordon教授は、彼自身のグループや世界的なマイクロバイオームプロジェクトを牽引するのみならず、メンターとして当該分野における主導的な研究者を数多く育てておられます。Gordon教授のマイクロバイオームを基盤とした疾患治療の開発や予防医学への貢献は慶應医学賞に相応しいものです。
略歴
- A. B.‐1969年
- Oberlin College
- M.D.‐1973年
- University of Chicago
- 1973年‐1974年
- Intern, Medicine, Barnes Hospital, St. Louis, Missouri
- 1974年‐1975年
- Junior Assistant Resident, Medicine, Barnes Hospital
- 1975年‐1978年
- Research Associate, Laboratory of Biochemistry, NCI, NIH
- 1978年‐1979年
- Senior Assistant Resident, Medicine, Barnes Hospital
- 1979年‐1981年
- Fellow in Medicine (Gastroenterology), Washington University
- 1981年‐1984年
- Assistant Professor of Medicine (Division of Gastroenterology),
Washington University in St. Louis - 1982年‐1984年
- Assistant Professor of Biological Chemistry
- 1985年‐1987年
- Associate Professor of Medicine and Biological Chemistry
- 1987年‐1990年
- Professor of Medicine and of Biochemistry and Molecular
Biophysics - 1991年‐2004年
- Alumni Endowed Professor (1991-2002) and Head, Dept.
Molecular Biology and Pharmacology - 1994年‐2003年
- Chair, Executive Council, Division of Biology and Biomedical
Sciences
(position oversees all graduate education in the biological
sciences) - 2002年‐現在
- Dr. Robert J. Glaser Distinguished University Professor
- 2004年-現在
- Director, Center for Genome Sciences and Systems Biology
受賞者からのメッセージ
この栄誉ある賞の選考委員会の皆様に御礼を申し上げます。私は、学生を含めた研究グループに恵まれ、彼らと共に腸内細菌叢と食事の相互関係について研究しています。世界の異なる地域に住む乳児、子供および成人の健康を栄養学的観点から増進するための新しい手法を見出すことに情熱を注いできました。マイクロバイオームの研究を通して、我々人間が微生物の世界と密接に結びついていることが明らかとなり、また人間の生態と進化に関する新たなを視点が与えられ、さらにこの貴重な微生物資源を有効活用するきっかけを得ることができました。
大隅 良典 博士(おおすみ よしのり)
授賞研究テーマ
オートファジーの分子機構の解明
生命を維持するためには細胞内のタンパク質を適切に分解・処理するシステムが必須です。大隅良典教授は、細胞が自分自身のタンパク質等の細胞成分を分解し再利用する「オートファジー現象」を出芽酵母の遺伝学的手法を用いて解析し、世界に先駆けてオートファジーに不可欠な遺伝子群を同定し、それらの機能と生物学的意義について明らかにされました。APGと名付けて報告されたこれらの遺伝子群は現在ATGと呼ばれていますが、それらの遺伝子群の発見によってオートファジーの具体的な分子機構が明確になりました。そして、大隅教授の発見を発端として、これらの出芽酵母のATGに相当する遺伝子が哺乳動物細胞にも存在し、オートファジーは高等動物においても発生・恒常性維持に必須の役割を果たしていることが解明されました。更に、オートファジー機構の異常は、神経変性疾患や悪性腫瘍の病態や進展においても重要な機能を果たしていることが見出されました。このように大隅教授の先駆的な研究から、オートファジーを基軸とする生命科学研究という新しい分野が創出され、教授自身も継続的に分野を牽引する研究成果を上げておられます。以上のような大隅教授の独創的な研究内容と、他の追随を許さない業績は、慶應医学賞に相応しいものです。
略歴
- <学位>
- 1967年3月
- 東京大学教養学部基礎科学科 卒業
- 1967年4月
- 東京大学大学院 理学系研究科 相関理化学専門課程 修士入学
- 1969年4月
- 同 博士課程進学
- 1972年3月
- 同 博士課程単位取得後退学
- <職歴>
- 1972年4月
- 東京大学農学部農芸化学化・研究生
- 1974年11月
- 理学博士取得
- 1974年12月
- 米国ロックフェラー大学・研究員
- 1977年12月
- 東京大学理学部植物学教室・助手
- 1986年7月
- 同 講師
- 1988年4月
- 東京大学教養学部・助教授
- 1996年4月
- 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所・教授
- 2004年4月
- 自然科学研究機構 基礎生物学研究所・教授
- 2009年4月
- 東京工業大学 統合研究院 フロンティア研究機構 特任教授
- 2014年5月‐現在
- 同 栄誉教授
受賞者からのメッセージ
この度、慶應医学賞を受賞することになり、身に余る光栄の至りに存じます。ご推薦頂いた先生方、選考委員、慶應医学振興基金の方々に深く御礼申し上げます。私はこの27年間、酵母を用いて細胞内の分解系の一つであるオートファジーの分子機構と生理的役割の解明を目指して研究を進めて参りました。近年オートファジーが様々な生命機能に関わっていることや、病態との関係も注目を集め、目覚ましい展開をしています。我々の研究がそのきっかけとなったとすれば、研究者としてこの上もなく嬉しく思います。これまでの研究が、素晴らしい共同研究者達に恵まれたことと、彼らのたゆまぬ努力の賜物であることに心から感謝の意を表します。