第21回(2016年)受賞者
Svante Pääbo 博士

マックス・プランク進化人類学研究所
(ドイツ)教授
1955年4月20日生まれ
受賞者ウェブサイト
http://www.eva.mpg.de/genetics/staff/paabo/index.html
授賞研究テーマ
人類進化の分子遺伝学への貢献
ヒトの起源への科学的な探求は1856年のネアンデルタール人の骨の発見に遡ります。旧人類ネアンデルタール人は3万年前に絶滅しましたが、現生人類とネアンデルタール人が同種であったのか、長い間論争が続いていました。スヴァンテ ペーボ教授は30年にわたり情熱的にこの問題に取り組み、創造力と革新力を以てネアンデルタール人の骨片由来DNAから全ゲノム配列を解読することに成功しました。驚くべきことに現生人類のゲノム配列の2%程度はネアンデルタール人に由来しており、現生人類の祖先がアフリカを出たあとに、ネアンデルタール人と交雑し、さらに世界の各地域に移動したことを示しています。ネアンデルタール人と現生人類の配列の比較により、代謝・認知等の領域で正の淘汰が行われた可能性が示唆されました。並行して、シベリア・デニソワ洞窟から出土した骨片由来DNAからも全ゲノム配列の解読に成功しました。その骨片が、これまで存在の知られていなかった絶滅した旧人類に由来することを証明しました。出土地にちなんで、デニソワ人と名付けられています。ペーボ教授は人類進化の分子遺伝学という新しい分野を創出し、開拓し、発展させました。その偉業は歴史上の哲学者や科学者たちの心を掴んで離さない「われわれはどこから来たのか」という問いに新しい角度から光を当てた点において記念碑的であり、医科学分野を越えて自然科学全体に貢献するものであります。
略歴
- 1955年
- Born in Stockholm, Sweden.
- 1975年-1976年
- School of Interpreters, Swedish Defense Forces.
- 1975年-1981年
- Studies at the Faculty of Humanities, University of Uppsala,
including History of Science, Egyptology, and Russian - 1977年-1980年
- Medical studies at the University of Uppsala, Sweden
- 1979年-1980年
- Part time research and teaching at the Department of Cell Biology,
Uppsala, and the Roche Institute for Molecular Biology, Nutley,
NJ, USA - 1981年-1986年
- Full time research as Ph.D. student at the Department of Cell
Research, University of Uppsala - 1986年
- Awarded Ph.D. degree at University of Uppsala, Sweden
- 1986年-1987年
- Postdoctoral research at the Institute for Molecular Biology II,
University of Zürich, Switzerland - 1987年
- Short period of work at Imperial Cancer Research Fund, London,
UK - 1987年-1990年
- Postdoctoral research at the Department of Biochemistry, University of California, Berkeley, USA
- 1990年
- Docent (habilitation) in Medical Genetics, University of Uppsala,
Sweden - 1990年-1998年
- Full Professor (C4) of General Biology, University of Munich,
Germany - 1997年-現在
- Director, Max-Planck-Institute for Evolutionary Anthropology,
Leipzig, Germany - 1999年-現在
- Honorary Professor of Genetics and Evolutionary Biology,
University of Leipzig, Germany - 2003年-2015年
- Guest Professor of Comparative Genomics, University of Uppsala,
Sweden - 2016年-現在
- Honorary Research Fellow, Natural History Museum, London, UK
受賞者からのメッセージ
この度、慶應医学賞の栄誉に浴することとなり、大変光栄に存じます。私は、遥か昔に滅びた生物から回収したDNAの復元に、30年以上にわたり取り組んでまいりました。その結果、絶滅した旧人類や動物、現生人類、および古代の病原菌のゲノムを、過去にさかのぼって研究することが可能になりました。私の研究室はもちろんのこと、その他多くの有能な共同研究者達のおかげで、この夢を実現することができたのです。私は彼ら全員に深く感謝しております。
本庶 佑(ほんじょ たすく)
授賞研究テーマ
PD-1分子の同定とPD-1阻害がん免疫療法原理の確立
本庶佑博士は1970〜80年代に抗体分子のクラススイッチ機構を解明され、さらにクラススイッチと体細胞突然変異の両方に必須である酵素AIDを発見されました。これらの重要な発見に加え、1992年にT細胞が活性化される際に発現誘導されるPD-1と名付けられた分子を発見されました。その後PD-1欠損マウスは自己免疫疾患を発症することや、リガンドのPD-L1との結合によりT細胞の活性化が抑制されることを見出し、PD-1システムがT細胞活性化の負の調節因子であることを明らかにされました。さらに本庶博士と共同研究者は、抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体が担がんマウスにおいてがんの成長を抑制することを見出し、免疫の負の制御系の遮断が、有効ながんの免疫治療となりうることを世界で初めて提示されました。この本庶博士らの研究成果をもとに、ヒト型抗PD-1抗体ニボルマブの臨床治験が行われ、実際にヒトのメラノーマ、肺がんのほか多くのがんで有効性が証明され、上市されました。現在抗PD-1療法は同じくT細胞の負の制御因子であるCTLA-4の阻害とともに『免疫チェックポイント阻害療法』と呼ばれており、がん免疫療法の考え方を一変させました。本庶博士の業績はPD-1/PD-L1分子の基礎研究から全く新しいがん免疫療法に道を拓いたことで、基礎医学と臨床応用の両面から高く評価される慶應医学賞に相応しいものです。
略歴
- <学歴>
- 1966年3月
- 京都大学医学部卒業
- 1967年4月
- 京都大学大学院医学研究科(生理系専攻)
- 1967年10月
- 医師国家試験合格
- 1971年3月
- 京都大学大学院医学研究科修了
- 1975年1月
- >医学博士学位取得(京都大学)
- <職歴>
- 1966年4月-1967年3月
- 医師実地修練(京都大学医学部附属病院)
- 1971年9月
- 米国カーネギー研究所発生学部門 客員研究員
- 1973年7月
- 米国NIH(NICHD分子遺伝学研究室)客員研究員
- 1974年11月
- 東京大学医学部助手(栄養学教室)
- 1979年12月
- 大阪大学医学部教授(遺伝学教室)
- 1984年3月
- 京都大学医学部教授(医化学教室)
- 1995年4月
- 京都大学大学院医学研究科教授(分子生物学)
- 1996年10月-2000年9月
- 京都大学大学院医学研究科長・医学部長
- 2002年10月-2004年9月
- 京都大学大学院医学研究科長・医学部長
- 2005年4月
- 京都大学大学院医学研究科寄附講座特任教授
(免疫ゲノム医学講座) - 2006年6月-2015年3月
- 京都大学大学院医学研究科寄附講座客員教授
(免疫ゲノム医学講座) - 2006年6月-2012年1月
- 内閣府 総合化学技術会議 議員
- 2012年4月-現在
- 静岡県立公立大学法人 理事長
- 2015年4月-現在
- 京都大学大学院医学研究科客員教授(連帯大学院講座)
- 2015年7月
- 公益財団法人 先端医療振興財団 理事長
- 2016年4月-現在
- 京都大学大学院医学研究科寄附講座客員教授
(免疫ゲノム医学講座) - 併任
- 1987年4月-1983年3月
- 京都大学医学部教授(免疫研究施設)
- 1988年4月-1983年2月
- 京都大学遺伝子実験施設、施設長
- 1991年6月-1986年
- フォガティスカラーNIH
- 1999年4月-2004年3月
- 高等教育局科学官(文部省)
- 2004年4月-2006年6月
- 日本学術振興会学術システム研究センター所長
- 2005年10月-現在
- 日本学術会議第二部会員
受賞者からのメッセージ
これまで多くの優れた医学者に贈られてきた慶應医学賞を受賞することは、私にとり大変な光栄です。私はPD-1分子に偶然出会い、これが免疫のブレーキ役であることを明らかにした時点で、人の病気への応用を考えました。マウスでがんの治療にPD-1阻害が有効であるという知見をもとに、PD-1の発見から22年の歳月を経て、新しい抗がん剤として世界中で使用が可能になりました。基礎研究者が臨床の場に新しいコンセプトの薬を届けられたのは、20数年前、我が国の基礎研究に積極的な投資が行われた成果であり、深く感謝します。