第15回(2010年)受賞者
Jules A. Hoffmann 博士

フランス国立科学研究センター
細胞分子生物学研究所
仏国 ストラスブール大学 教授
1941年8月2日生まれ
授賞研究テーマ
昆虫における自然免疫システムとToll受容体の発見
自然免疫システムは、侵入した細菌などの異物をいち早く取り除くための重要な生体防御機構ですが、その分子機構、特に微生物の認識機構は長らく未解明でした。Hoffmann博士は、ショウジョウバエを用いて、この自然免疫にToll遺伝子が重要な役割を果たすことを見出しました。受容体分子Tollは微生物に対するセンサーとして働き、シグナル伝達経路を活性化して抗菌ペプチドの産生を促進します。この発見が自然免疫研究のブレークスルーとなり、哺乳動物においてもToll like受容体(TLR)が次々に発見され自然免疫システムの理解が一挙に進みました。
Hoffmann博士は、昆虫(ショウジョウバエ)を用いて自然免疫システムについて研究をおこなっていました。Hoffmann博士らはカビに抵抗性を与えるToll, NF-κB, I-κBといった、元々背中や腹の軸を決定することが知られていた遺伝子群の変異株を用いて、これらの遺伝子群がカビへの抵抗性などの自然免疫に関与することをはじめて示しました。Toll受容体システムの発見以降、Hoffmann博士らは、自然免疫系がどのようにして細菌を認識しているかという重要な課題に取り組み、細菌の外殻であるペプチドグリカンを認識する分子の同定・解析を精力的に進められました。彼らの研究成果はヒトの免疫システムの理解に貢献し、現在ではワクチン作成の際のアジュバント(免疫増強剤)の開発や新規抗ウイルス剤の開発に役立っています。
略歴
- 1962年
- Laboratory Assistant at the Faculty of Sciences of the University of Strasbourg
- 1963年
- Research Training Assistant, CNRS
- 1964年-1968年
- Research Assistant, CNRS
- 1969年-1973年
- Research Associate, CNRS
- 1974年-2009年
- Research Director, CNRS
- 1978年-2005年
- Director of the CNRS Research Unit 9022 "Immune Response
and Development in Insects" - 1987年
- German Academy of Sciences Leopoldina
- 1992年
- French National Academy of Sciences
- 1993年
- Academia Europaea
- 1995年
- Member of EMBO (European Molecular Biology Organization)
- 1993年-2005年
- Director of the Institute of Molecular and Cellular Biology, CNRS, Strasbourg
- 2003年
- American Academy of Arts and Sciences
- 2006年
- Russian Academy of Sciences
- 2007年-2008年
- President of the French National Academy of Sciences
- 2008年
- National Academy of Sciences (NAS)
- 2008年-現在
- Emeritus Distinguished Class Research Director at CNRS
- 2008年-現在
- Invited Professor at Strasbourg University
審良 静男 博士
授賞研究テーマ
自然免疫システムにおける微生物認識と免疫応答機構の解明
動物の免疫系は自然免疫と獲得免疫に大別されます。獲得免疫系のリンパ球が、T細胞・B細胞受容体を介して微生物等を認識・反応する機構は詳細に理解されていましたが、樹状細胞やマクロファージなどの自然免疫系細胞が微生物等を認識して反応する機構は十分に解明されていませんでした。審良静男博士は、Jules A Hoffmann博士らが、ショウジョウバエの自然免疫応答に関与する分子として提唱していたToll like受容体(TLR)について、10種類あまりのマウスTLRファミリーの遺伝子ノックアウトマウスの作製を行い、TLR7が病原体RNAをTLR9が病原体DNAを認識するなど各TLRに対応する微生物成分の同定を行いました。また、炎症性サイトカインやインターフェロンの産生につながる各TLRの下流シグナル伝達系の解明、TLRによる免疫応答制御など、自然免疫に重要なTLRの意義を確立しました。これらの発見は後にTLRの各種免疫疾患への寄与に関する研究へと発展しています。さらに、RIG-IなどのTLR以外の微生物感知システムも明らかにし、自然免疫応答の分子機構の解明に多大な貢献をされました。これらの研究成果は、今後、疾患の免疫病態のさらなる解明と免疫制御法の開発につながると考えられ、審良博士の業績は慶應医学賞に相応しいと考えられます。
略歴
<学歴・職歴>
- 1977年3月
- 大阪大学医学部卒業
- 1977年6月
- 大阪大学附属病院内科にて研修
- 1978年6月
- 市立堺病院内科就職
- 1980年4月-
1984年3月 - 大阪大学大学院医学研究科(第3内科), 医学博士学位受領
- 1984年4月
- 日本学術振興会奨励研究員
(大阪大学細胞工学センター免疫研究部門) - 1985年3月
- 米国カリフォルニア大学バークレー校免疫学部留学
- 1987年6月
- 大阪大学細胞工学センター免疫研究部門(岸本忠三教授)助手
- 1995年5月
- 大阪大学細胞生体工学センター多細胞生体系研究部門助教授
- 1996年1月
- 兵庫医科大学生化学教授
- 1999年4月
- 大阪大学微生物病研究所癌抑制遺伝子研究分野教授
- 2005年4月
- 大阪大学微生物病研究所生体防御研究部門自然免疫学分野教授
(改組に伴う部門名・分野名変更) - 2007年10月
- 大阪大学免疫学フロティア研究センター 拠点長