慶應義塾医学振興基金


第18回(2013年)受賞者

Victor R. Ambros 博士

Victor R. Ambros 博士

米国マサチューセッツ州立大学
メディカルスクール 分子医学 教授
1953年12月1日生まれ

授賞研究テーマ

microRNAの発見とその作用機構に関する研究

Ambros博士は、線虫の緻密な遺伝学的な観察から個体発生の適切な時期を決める遺伝子を単離し、その一つであるlin-4遺伝子産物が蛋白質ではなく、22塩基長程度の小さなRNAとして機能すること、その標的であるmRNAの3'非翻訳部位にそのlin-4 RNAと相補性を示す領域が存在し、lin-4 RNAが標的mRNAに直接結合することで翻訳を抑制することを見いだしました。現在、このような小さなRNAは、microRNA (miRNA)と呼ばれています。ヒトの場合、既に2000種類以上のmiRNAが同定されており、これらmiRNAが多くの遺伝子の発現を制御することで、細胞増殖、細胞死、細胞運命系譜決定、幹細胞維持、発生段階の時間的制御等を含めた、おそらく、ほぼ全ての生物学的プロセスに関与していることが明らかになってきています。一方、miRNAの発現異常が癌や脳神経疾患を含む多くの病気に関連することも明らかになってきました。今後、miRNAは診断や治療への応用が大きく期待されています。Ambros博士は、長年、この分野を牽引し、miRNAの作用機構とその生合成の解明に多大な貢献をされました。

略歴

1975年-1976年
Research Assistant, M.I.T. Center for Cancer Research. Supervisor: David Baltimore.
1976年-1979年
Graduate Research Assistant. Supervisor: David Baltimore
Postdoctoral Fellow, M.I.T. Supervisor: H. Robert Horvitz
1985年-1988年
Assistant Professor,
Department of Cellular and Developmental Biology, Harvard University
1988年-1992年
Associate Professor,
Department of Cellular and Developmental Biology,
Harvard University
1992年-1996年
Associate Professor, Biological Sciences, Dartmouth College
1996年-2001年
Professor, Department of Biological Sciences,
Dartmouth College
2001年-2007年
Professor of Genetics, Dartmouth Medical School
2008年-現在
Professor, Program in Molecular Medicine, University of
Massachusetts Medical School

<主な受賞歴>

2005年
Lewis S. Rosenstiel Award (共同受賞), Brandeis University
2008年
Lasker Award (共同受賞)
2008年
Gairdner Foundation International Award
2009年
Dickson Prize, University of Pittsburgh
2012年
Dr. Paul Janssen Award for Biomedical Research (共同受賞)

長田 重一 博士

長田 重一 博士

京都大学大学院医学研究科 医化学 教授
1949年7月15日生まれ

授賞研究テーマ

細胞死の分子機構・生理作用の研究

我々の生体では毎日多数の細胞が産み出される一方、老化した細胞や傷害・感染などで異常になった細胞は、アポトーシスと呼ばれるプログラムされた細胞死によって除かれることで恒常性が維持されています。アポトーシスを起こした細胞は、染色体DNAが断片化するとともに、細胞表面にフォスファチジルセリン(PS)というリン脂質が曝露されることでマクロファージに認識されて除去されます。長田博士はアポトーシスを誘導するFasと呼ばれる分子の遺伝子クローニングを皮切りに、Fasリガンド を同定し、さらにFasからのシグナルがCAD と呼ばれるDNA分解酵素を活性化し、アポトーシス細胞の特徴であるDNAの断片化を導くことを明らかにしました。またこれらの過程の異常が自己免疫疾患や免疫異常を引き起こすことを示しました。さらに最近では、マクロファージがアポトーシス細胞を認識し貪食するのに必要な分子群を発見するとともに、長年の謎であったPSを細胞表面へ曝露させるのに必要な酵素、スクランブラーゼを同定しました。このように長田博士はアポトーシスの分子機構の解明とその生理的意義について多大な業績を残されていると同時に、現在も研究を大きく発展され続けており、慶應医学賞に相応しいと考えられます。

略歴

<学歴>

1972年3月
東京大学理学部生物化学科 卒業
1977年3月
東京大学大学院理学系研究科 博士課程修了

<職歴>

1977年11月
チューリッヒ大学 分子生物学研究所 研究員
1982年1月
東京大学 医科学研究所 助手
1987年4月
大阪バイオサイエンス研究所 第一研究部 部長
1995年7月
大阪大学 医学部 教授
2002年4月
大阪大学大学院 生命機能研究科 教授
2007年4月
京都大学大学院 医学研究科 教授

<主な受賞歴>

1994年11月
Emil Adolf von Behring Prize, Philipps-Universitat Marburg
(Germany)
1995年10月
Robert Koch Award, Koch Foundation (Germany)
1997年1月
Le Prix Antoine Lacassagne, French Cancer League (France)
2001年11月
文化功労者・顕彰
2012年12月
Debrecen Award, Debrecen University (Hungary)

医学賞受賞者一覧