慶應義塾医学振興基金


第19回(2014年)受賞者

Karl Deisseroth 博士

Karl Deisseroth 博士

米国スタンフォード大学教授
ハワード・ヒューズ・メディカル・
インスティテュート研究員
1971年11月18日生まれ

授賞研究テーマ

光遺伝学の実現と神経回路制御による脳機能解明

Deisseroth 博士は、古細菌型ロドプシンを改良した光感受性蛋白質の利用と光照射を組み合わせることにより、特定の神経細胞だけを狙い、ミリセカンド単位で脱分極あるいは過分極させ、神経発火をコントロールすることに成功しました。この革新的技術は後に光遺伝学(Optogenetics)と命名されました。光遺伝学は、生体組織の特異的細胞種における機能獲得,機能欠損を達成できます。特に脳神経系では、様々な種類の神経細胞が混在し、複雑な細胞社会を構築しているため、個々の神経活動変化と全体の行動変化の関係を理解することが極めて困難であり、その解決のための技術突破が課題でした。この緻密な光遺伝学的手法により、特定の神経細胞の神経活動を自由自在に操作することが出来るようになり、特定の神経細胞の活動と特定の行動の因果関係が実証可能となって、Deisseroth 博士は、うつ病や不安の病態に関わる神経回路などこれまで未解決であった疑問を次々と解明して来ました。光遺伝学では、電気活動のみならず細胞内シグナルをも人為的にコントロールできるため、広く医学・生命科学研究へ応用出来ることが注目されています。Deisseroth 博士は、この分野を新たに創始、牽引し、脳機能発現の根本的な理解に向けて多大な貢献をしました。

略歴

1988年-1992年
A.B., Biochemical Sciences, summa cum laude,
Harvard University
1992年-2000年
M.D., Stanford University Medical School (MSTP Program)
1994年-1998年
Ph.D., Stanford University (Neuroscience)
2004年-現在
Principal Investigator and Laboratory Head,
Department of Psychiatry and Behavioral Sciences,
Stanford University Clark Center
2005年-2008年
Assistant Professor of Bioengineering and of Psychiatry and
Behavioral Sciences, Stanford University
2009年-2012年
Associate Professor of Bioengineering and of Psychiatry and
Behavioral Sciences, Stanford University
2012年-現在
Professor of Bioengineering and of Psychiatry and
Behavioral Sciences, Stanford University
2012年-現在
D.H. Chen Professor, Stanford University
2013年4月-現在
Investigator, Howard Hughes Medical Institute
2013年-現在
Foreign Adjunct Professor, Karolinska Institutet, Stockholm

受賞者からのメッセージ

この度、第19回(2014 年)慶應医学賞受賞の栄誉を浴することになり大変光栄に存じます。光遺伝学(Optogenetics)の発展ならびにこの技術を応用して健常時および疾患における脳に関する理解を深めようとする私共の取り組みを評価いただき大変感謝しております。この医学賞受賞を特に有意義と感じている理由は、光遺伝学が、生物学という基礎科学の研究手段として生み出されたにも関わらず、健常時のみならず疾患においても脳機能の知見に関して予期せぬ発見につながっているからです。神経科学者、精神科医として私は、今回の受賞により基礎生物学研究のさらなる強化、発展に寄与できることを願っています。

濱田 博司 博士(はまだ ひろし)

濱田 博司  博士

大阪大学大学院生命機能研究科 教授
1950年7月15日生まれ

授賞研究テーマ

左右軸を中心とした哺乳動物胚発生の分子制御機構

哺乳動物の体は、左右対称ではありません。どうして、心臓は体の左側にあるのでしょうか?
動物の体づくりには、前後、背腹、そして左右軸が決定されることが必要です。体の前後、背腹がどのようにして決定されるかに関しては多くの研究がありますが、左右軸に関してはその手がかりすらない状況でした。濱田博士は、胚性腫瘍細胞において、発生分化を促す刺激により発現する遺伝子の一つが、発生の初期において短時間、体の左側においてのみ発現することを見出し、Lefty と名付けました。この遺伝子の発見は、左右軸の決定という発生学における大きな問題に対する画期的な突破口となりました。濱田博士は、Lefty の機能解析やその発現制御機構についての研究を遺伝子欠損マウスを用いた発生工学的な手法を用いて緻密に行い、数多くの業績を上げてきました。最近では、いかにして左右の対称性が壊れるのか、非対称性に線毛の動きがいかに関与するのか、精力的に取り組んでいます。体がつくられていくときの左右軸決定の業績は、慶應医学賞にふさわしいものです。

略歴

<学歴>

1975年3月
岡山大学医学部 卒業
1979年3月
岡山大学大学院医学研究科博士過程修了

<職歴>

1979年-1979年
(財)癌研究所生化学部 流動研究員
1979年-1984年
米国立衛生研究所・癌研究所
Visiting Associate/Visiting Scientist
1985年-1988年
カナダニューファンドランドメモリアル大学医学部 
Assistant Professor
1988年-1993年
東京大学医学部生化学教室 助教授
1993年-1995年
(財)東京都臨床医学総合研究所化学療法部 部長
1995年-2002年
大阪大学細胞生体工学センター 教授
2002年-現在
大阪大学大学院生命機能研究科 教授

受賞者からのメッセージ

この度、慶應医学賞受賞の栄誉に浴すること大変光栄に思います。推薦して頂きました先生方、選考委員の先生方、慶應医学振興基金の方々に深く感謝致します。今回の受賞は、発生生物学の謎である体の非対称性が生じる機構を明らかにするために、一つ一つの重要な問題と辛抱強く向き合ってきた結果と思います。東京都臨床医学総合研究所で偶然に始まった研究を、大阪大学大学院生命機能研究科で継続し、20年間をとおして数多くの優秀な共同研究者とともに進めてきました。またその間、国内外の数多くの研究者に協力して頂きました。これら共同研究者の方々に深く感謝します。

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