慶應義塾医学振興基金


第24回(2019年)受賞者

岸本 忠三 博士(きしもと ただみつ)

岸本 忠三 博士

大阪大学 免疫学フロンティアセンター 特任教授
1939年5月7日生まれ

授賞研究テーマ

「IL-6の発見から医学への応用」

岸本忠三(きしもと ただみつ)博士は、世界に先駆けてBリンパ球に作用して抗体産生を誘導するサイトカインであるインターロイキン6(IL-6)を発見し、1986年にその遺伝子をクローニングしました。さらに博士は、IL-6 受容体遺伝子やその下流の転写因子STAT3の同定に成功し、IL-6のシグナル伝達機構の全容を解明しました。その後博士らは、IL-6 が炎症性疾患や関節リウマチ、多発性骨髄腫など多くの疾患に関与することを明らかにしました。このような基礎的なIL-6に関する研究をもとに、岸本博士は、製薬会社と共同でIL-6 の作用を阻害する抗IL−6受容体モノクローナル抗体トシリズマブを開発し、関節リウマチやキャスルマン病の優れた治療薬として確立しました。このように岸本博士は、IL-6 の発見から始まり、IL-6のシグナル伝達機構および生理的・病理的作用の解明を行い、さらにはそれらの基礎研究を基にした疾患の治療法の開発までを一貫して発展させました。その業績は、以降のサイトカインの基礎および臨床研究の発展に多大な影響を与えました。また博士は多くの優れた後進を育てたことでも知られます。その業績は、医学・生物学領域の研究でも歴史に残る偉業であり慶應医学賞にふさわしいと考えられます。

略歴

<学歴>

1964年3月
 
大阪大学医学部卒業
1969年3月
  
大阪大学大学院医学研究科修了 医学博士学位取得

<職歴>

1991年4月
 
大阪大学医学部教授(内科学第三講座)
1995年8月
 
大阪大学医学部長
1997年8月
 
大阪大学総長
2004年1月
 
総合科学技術会議議員
2007年4月
  
財団法人千里ライフサイエンス振興財団理事長
2011年9月
 
大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授

<主な受賞歴>

1992年6月
恩賜賞・日本学士院賞
1998年11月
文化勲章
 
2009年5月
クラフォード賞(スェーデン王立科学アカデミー)
2011年4月
日本国際賞
2017年4月
King Faisal International Prize(サウジアラビア王国、キング・ファイサル財団)

受賞者からのメッセージ

私の永年の研究が評価され、慶應医学賞をいただいたことを大変嬉しく思います。 IL-6の発見から40年、シグナル伝達の全貌を明らかにし、その成果は我が国初の抗体医薬(抗IL-6受容体抗体)の開発につながり、現在全世界100ヶ国以上で関節リウマチや血管炎、サイトカインストーム等の治療に用いられ、100万人以上の患者をその苦痛から救っていることを大変嬉しく思っています。 永年に亘る研究を通して多くの研究者が育ったことも私の喜びです。80歳になってもこういう受賞を1つの励みとして、研究を続けたいと思っています。

Hans C. Clevers 博士(ハンス C. クレバース)

Hans C. Clevers 博士

ユトレヒト大学医療センター 分子遺伝学教授
ヒューブレヒト研究所 主任研究員
プリンセス・マキシマ・小児腫瘍センター 主任研究員
1957年3月27日生まれ

受賞者ウェブサイト
https://www.hubrecht.eu/research-groups/clevers-group/

授賞研究テーマ

「Wntシグナルによる幹細胞と臓器形成制御」

Wntシグナルは、発生・分化、幹細胞の維持、発がんなど生物学的に極めて重要なシグナルであることが知られています。Hans C. Clevers博士は、Wntシグナル活性化において最も重要な転写因子であるT-cell factor (Tcf)ファミリ―を単離・同定し、それ以後一貫してWntシグナルの研究を行ってこられました。Clevers博士は、βカテニンとTcfが複合体を形成してWntシグナルが活性化することを見出し、大腸腺腫や大腸がんの発生機構の解明に重要な発見となりました。そして博士は、Wntシグナルが幹細胞および臓器形成制御に関わることを提唱し、Wntシグナル標的遺伝子を網羅的に解析することにより、Lgr5が組織幹細胞に特異的に発現していることを見出し、初めて腸管上皮幹細胞を同定されました。この発見により、生体内で幹細胞を追跡することに成功し、幹細胞の機能や性質を次々に明らかにしました。さらに、腸管上皮幹細胞をWntシグナルの活性化機構を利用して体外で永続的に増殖させるオルガノイド技術を開発されました。本技術は腸管上皮幹細胞のみならず、肝臓・膵臓・胃・肺などの様々な組織幹細胞に応用でき、がんを含め様々な疾患の病態解明に大きな貢献をもたらしています。

略歴

<学歴>

1975 - 1982
M.Sc. Biology, University of Utrecht
1978 - 1984
M.D. University of Utrecht
1984 - 1985
Ph.D. University of Utrecht

<職歴>

1985 - 1989
Postdoctoral Fellow. Cox Terhorst Lab at the Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School, Boston MA, USA
1989 - 1991
Assistant Professor, Department of Clinical Immunology, University of Utrecht
1991 - 2002
Professor and Chairman, Dept. of Immunology, Faculty of Medicine, University of Utrecht
2002 - 2012
Director of the Hubrecht Institute, Royal Netherlands Academy of Arts and Sciences
2012 - 2015
President of the Royal Netherlands Academy of Sciences (KNAW), Amsterdam
2015 - 2019
Chief Scientific Officer/Director Research of the Princess Máxima Center for pediatric oncology, Utrecht
2002 -
Professor in Molecular Genetics, University Medical Center Utrecht
2002 -
Principal Investigator of a research group of ~40 scientists at the Hubrecht Institute, Utrecht
2015 -
  
Principal Investigator at the Princess Máxima Center

<主な受賞歴>

2004
Louis-Jeantet Prize for Medicine, Geneva, Switzerland
2011
The Ernst Jung Medical Award, Germany
2012
The Heineken Prize for Medicine
2013
The Breakthrough Prize in Life Sciences
2016
The Körber European Science Prize, Germany

受賞者からのメッセージ

2019年度慶應医学賞を、岸本忠三教授と並んで受賞させていただいたことを大変光栄に存じます。この受賞の主たる理由となったのは、オルガノイド技術としても知られている、ヒト小型臓器の三次元培養システムの開発です。この技術開発において、鍵となる重要な実験を成功させたのは、私の研究室に在籍していた若き日本人研究者であり、昨年度慶應義塾大学の教授に就任した、佐藤俊朗博士でした。

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