慶應義塾医学振興基金


第25回(2020年)受賞者

宮脇 敦史

宮脇 敦史

国立研究開発法人理化学研究所
チームリーダー
1961年12月28日生まれ



受賞者ウェブサイト
https://cfds.riken.jp/

授賞研究テーマ

「革新的な分子イメージングの開発による生命現象の解明」

バイオイメージングは、生きた細胞内での物質のダイナミックな変化を色鮮やかに描き出すための可視化技術であり、現在の医学、生命科学研究を大きく発展させる礎となっています。宮脇敦史博士は、これまでにCameleon, Venus, Kaede, Dronpa, Pericam, Keima, Mermaid, Fucci, UnaG, GEPRA, Achilles, mito-SRAIなど数多くの蛍光タンパク質やバイオセンサーを独自に開発し、細胞周期やマイトファジーなど細胞内で起こるミクロな分子動態の可視化に成功しました。また、動物個体や臓器深部からのシグナル検出を可能にするために、臓器透明化試薬Scaleの開発、および人工生物発光システムAkaBLIを開発し、神経科学を始めとする幅広い分野において独創的かつ主導的な役割を果たしてきました。これらの新規技術は世界中の研究者に広く利用されており、そこから得られた知見は医学、生命科学研究に多大なる影響を与えています。このように宮脇博士は、医学、生命科学の研究に新展開をもたらし、新しいパラダイムを切り開く独創的な研究を展開しています。

略歴

<学歴>

1987年3月
 
慶應義塾大学医学部卒業
1991年3月
  
大阪大学大学院医学研究科博士課程修了

<職歴>

1991年4月
 
日本学術振興会 特別研究員
1993年4月
 
東京大学医科学研究所 助手(~1998年12月)
1995年10月
 
米国カリフォルニア大学サンディエゴ校 博士研究員
1999年-現在
 
理化学研究所脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー(現: 国立研究開発法人理化学研究所 脳神経科学研究センター 細胞機能探索技術研究チーム)
2004年1月
 
理化学研究所脳科学総合研究センター先端技術開発グループグループディレクター(~2009年3月)
2005年7月
 
東京大学分子細胞生物学研究所細胞機能情報研究センター プロテオーム研究分野 客員教授(~2010年3月)
2006年4月
自然科学研究機構基礎生物学研究所発生ダイナミクス研究部門 客員教授(~2011年3月)
2006年10月
独立行政法人科学技術振興機構ERATO「生命時空間情報」プロジェクト 研究総括(~2012年3月)
2007年4月-現在
早稲田大学理工学術院 客員教授
2008年4月
 
理化学研究所脳科学総合研究センター 副センター長 (~2018年3月)
2009年4月
 
慶應義塾大学医学部 客員教授(~2014年3月)
2010年4月
 
東邦大学理学部 客員教授(~2011年3月) 
2012年4月-現在
 
横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 客員教授
2013年4月-現在
 
独立行政法人理化学研究所光量子光学研究領域生命光学技術研究チーム チームリーダー

<受賞歴>

2006年12月
 
日本学術振興会賞
2013年6月
 
藤原賞
2015年11月
 
W. Alden Spencer Award, Columbia University
2017年11月
 
紫綬褒章
2017年12月
 
上原賞
       

受賞者からのメッセージ

慶應医学賞は私にとって特別な存在です。例年授賞式が行われる北里図書館は、昔あるとき一医学生の私が、分子イメージングの偉力の啓示を授かった場所です。検索ソフトがない時代に戯れた論文雑誌の数々。沢山の有益な「むだ」を学びました。やがて、生体分子や細胞の気持ちを理解すべき可視化技術の学際的な開発研究を志し、卒業後は医学からやや離れて様々な学問分野を回遊しました。可視光の吸収や放出の制御を窮めるために、分子の発色団上で揺らぐ電子の気持ちを掴もうと勉めました。技術の革新に没頭し、解明すべき生命現象の途方もない多様性に愕然としながら、いつかは医学に回帰する決意を胸に秘めてきました。この度の受賞は、医学へ踏み込む私を後押ししてくれることでしょう。

Aviv Regev

Aviv Regev

GenentechResearchandEarlyDevelopmen
Executive Vice President
1971年11月7日生まれ

Website
https://www.broadinstitute.org/


受賞者ウェブサイト
http://www.gene.com

授賞研究テーマ

「シングルセル解析技術から生命複雑系の理解へ」

シングルセル解析技術は、一細胞レベルで遺伝子発現など細胞の状態を詳細に解析する技術であり、健康や病気に影響を与える個々の細胞の特性を捉え、それらの相互作用をシステムとして理解するための新しい手法です。Aviv Regev博士は、シングルセル解析に必要な計算生物学の手法を独自に開発し、2010年代初頭よりこの分野をリードしてきました。2013年にRegev博士はマウス樹状細胞のシングルセル解析について画期的な論文を発表し、今日に至るシングルセル解析技術の基盤を確立しました。その後、解析を効率よく行うための手法としてDrop-Seqを共同開発し、さらにCRISPRゲノム編集技術とシングルセル解析を組み合わせたPerturb-Seqを開発し、一度に数千の遺伝子機能を包括的に解析することを可能にしました。また、病態と関連する新しい細胞種の特定や、腫瘍組織における細胞の個性やつながりを解明するための新しい計算手法の確立など、多くの医学・生物学的に重要な知見を提供しました。さらに、人体のすべての細胞をマッピングする計画の国際コンソーシアム「Human Cell Atlas」を牽引しています。このように、シングルセル解析技術の進歩は医学・生物学において飛躍的な発展をもたらしており、Regev博士の業績は慶應医学賞にふさわしいと考えられます。

略歴

<学歴>

1998-2002
 
Ph.D.,Computational Biology, Tel Aviv University, Tel Aviv, Israel
1992-1997
  
M.Sc. (direct, Summa cum laude) Tel Aviv University, Tel Aviv, Israel

<職歴>

2020-Current
 
Executive Vice President, Genentech Research and Early Development
2014-2020
 
HHMI Investigator
2015-2020
 
Chair of the Faculty (Executive Leadership Team), Broad Institute
2015-Current
(on leave)
 
Professor, Department of Biology, MIT
2012-2020
 
Founding Director, Klarman Cell Observatory, Broad Institute
2013-2020
 
Director, Cell Circuits Program, Broad Institute
2011-2015
 
Associate Professor with Tenure, Department of Biology, MIT
2009-2014
 
Early Career Scientist, Howard Hughes Medical Institute,
2006-Current
(on leave)
 
Core Member, Broad Institute of MIT and Harvard
2006-2011
 
Assistant Professor, Department of Biology, MIT
2003-2006
 
Bauer Fellow, Center for Genomics Research, Harvard University

<受賞歴>

2020
 
Lurie Prize in Biomedical Sciences
2019
 
US National Academy of Sciences, Elected Member
2019
       
FASEB Excellence in Science Mid-Career Investigator Award
2017
     
Paul Marks Prize, Memorial Sloan Kettering Cancer Center
2017
      
Innovator Award, International Society for Computational Biology
          

受賞者からのメッセージ

この度は、宮脇敦史博士 とともに、慶應義塾大学医学賞審査委員会の皆様からこのような栄誉ある賞をいただきましたことを深く感謝いたします。本賞は、健康や病気における細胞や組織の機能に関する幅広い基礎的な発見をもたらした新しい分野であるシングルセルゲノミクスの急速な発展と影響力を高く評価してくださるものであると同時に、今後の新たな治療法発見の支援となるものでもあります。また、我々の体の細胞の基準地図としての「Human Cell Atlas」の作成における、日本の主要な科学的リーダーも含めた国際的な取り組みにとって大きな力となりました。

医学賞受賞者一覧