第29回(2024年)受賞者
斎藤 通紀博士

京都大学 高等研究院 教授
京都大学 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)拠点長
1970年6月2日生まれ(54歳)
受賞者ウェブサイト
京都大学 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)拠点
授賞研究テーマ
「生殖細胞発生過程の再構築」
新しい生命の誕生は、生殖細胞、つまり精子と卵子の融合によって受精卵ができることから始まります。受精卵は母胎の中で細胞分裂を繰り返し、さまざまな組織や臓器へと分化していくことで、徐々に私たちの体が形成されていきます。驚くべきことに、受精卵ができてわずか2週間後には、その次の世代への準備がおこっている、つまり、生殖細胞の元となる細胞が胎児の中で形成されるのです。この200万年にわたる人類の歴史の中で、途切れることなく綿々と繰り返される「生殖細胞の発生」という神秘的な生命現象を、分子レベルで説明することに成功したのが斎藤博士です。斎藤博士は、この現象に必要不可欠な分子を発見し、その知見に基づいて、マウスのiPS細胞から精子、卵子、受精卵を試験管内で作り、さらにマウスの個体まで育てることに成功しました。また、斎藤博士はヒトの研究においても、iPS細胞から精子や卵子の前段階の細胞を大量に作ることに成功し、現行の国の倫理指針の許す限界まで研究を進めています。生殖細胞発生の分子基盤を解明し、体細胞から受精卵を作るという医学・生物学における究極の課題の解決へと道を切り開いた斎藤博士の功績は、まさに慶應医学賞の受賞にふさわしいものと考えます。
略歴
<学歴>
- 1995年
- 京都大学医学部医学科専門課程(学位M.D.)
- 1999年
- 京都大学大学院医学研究科分子医学系専攻分子細胞情報学講座(学位Ph.D.)
<職歴>
- 1996年-
- 日本学術振興会 特別研究員 (DC1)
- 1999年-
- 日本学術振興会 特別研究員 (PD)
- 2000年-
- Wellcome Trust/ Cancer Research UK Gurdon Institute for Developmental Biology and Cancer, Travelling Research Fellow
- 2003年-
- Wellcome Trust/ Cancer Research UK Gurdon Institute for Developmental Biology and Cancer, Senior Research Associate
- 2003年-
- 独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター チームリーダー
- 2009年-
- 京都大学 大学院医学研究科 生体構造医学講座機能微細形態学 教授
- 2011-2018年
- 独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ERATO 研究総括
- 2018年-
- 京都大学 iPS細胞研究所 連携主任研究者
- 2018年-
- 京都大学 WPI拠点 ヒト生物学高等研究拠点 拠点長
- 2018年-
- 京都大学 高等研究院 教授
- 2023年-
- 国立研究開発法人科学技術振興機構 創発的研究支援事業 創発プログラムオフィサー
<主な受賞歴>
- 2016年
- 武田医学賞(武田科学振興財団)
- 2019年
- 上原賞(上原記念生命科学財団)
- 2019年
- 朝日賞(朝日新聞文化財団)
- 2020年
- 恩賜賞・日本学士院賞(日本学士院)
- 2020年
- ISSCR Momentum Award, International Society for Stem Cell Research (ISSCR)
受賞者からのメッセージ
慶應医学賞の受賞者にご選考頂いたことは望外の喜びであり、またその責任の重さに身の引き締まる思いです。私は、生命の永続性を保証する生殖細胞の発生機構に興味を抱き、その研究を継続してきました。その精緻な仕組み、新たな疑問と可能性に研究の魅力は広がり続けています。研究はヒトへと発展し、ヒト生殖細胞の発生機構を解明し、その試験管内再構成を実現する研究を推進中です。本賞受賞を励みとして、ヒトの成り立ちや疾病の起源に迫る、新たな生殖医学とその哲学構築に向けて、さらに研究に邁進する所存です。
Demis Hassabis博士
授賞研究テーマ
「脳の計算原理に基づく人工知能による医学生物学研究の変革」
Demis Hassabis博士は、脳の計算原理に基づく汎用人工知能の実現を目指し、ベンチャー企業DeepMindを起業し、そこで開発した人工知能技術により社会に新たな変革をもたらしてきました。Hassabis博士らは、長期的な報酬予測による行動学習の手法である強化学習に、海馬のエピーソード記憶に着想を得た「経験リプレー」の機構を導入することで、深層ニューラルネットワークと強化学習を安定的に組み合わせた「深層強化学習」を開発しました。深層強化学習はビデオゲームで人間並の成績を実現したのみならず、囲碁プログラムAlphaGoに実装され、人間の世界チャンピオンに圧勝するという人工知能の金字塔を打ち立てました。さらにHassabis博士らは深層ニューラルネットワークの科学への応用に注力し、生命科学のグランドチャレンジであるアミノ酸配列からのタンパク質の構造予測のプログラムAlphaFoldを開発し、そのプログラムと予測されたタンパク構造のデータベースを公開することで、医学生物学研究に革命的なインパクトを与えました。Hassabis博士らの挑戦は、基礎科学から言語や画像の生成など多岐にわたります。今後のさらなる挑戦によって脳の計算原理に基づく汎用人工知能が実現すれば、医学生物学研究の変革のみならず、より豊かな人間社会を生み出していくことが期待されます。
略歴
<学歴>
- 1994 - 1997
- BA (Hons) in Computer Science (Double 1st Class), Queens’ College, University of Cambridge
- 2005 - 2009
- PhD in Cognitive Neuroscience, Institute of Neurology, University College London (UCL)
<職歴>
- 1993-1998
- Lead AI Programmer, Lead Designer, Bullfrog Productions; Lionhead Studios, Guildford
- 1998- 2005
- Founder & CEO, Elixir Studios, London
- 2009- 2010
- Wellcome Trust Postdoctoral Research Fellow, Gatsby Unit, UCL; McGovern Institute, MIT; Dept of Psychology, Harvard
- 2010 -present
- Co-Founder & CEO, Google DeepMind
<主な受賞歴>
- 2022
- BBVA Foundation Frontiers of Knowledge Award
- 2022
- Wiley Prize in Biomedical Sciences
- 2023
- Albert Lasker Award for Basic Medical Research
- 2023
- Canada Gairdner International Award
- 2023
- Breakthrough Prize in Life Sciences
受賞者からのメッセージ
慶應医学賞をいただけることを大変光栄に存じます。私はHuman Intelligence(人間の知能)に触発され、科学を進展させ、何十億人もの生活を向上させる可能性を持つAI(Artificial Intelligence:人工知能)の研究にキャリアを捧げてきました。私たちが開発したAlphaFoldは、生命科学の50年来のグランドチャレンジであるタンパク質の構造予測のプログラムで、200万人以上の研究者に利用されることで生命科学における重要な研究が推進されました。AIは今後、極めて深刻な病気の治療法を可能にし、パーソナライズド・メディシン(個別化医療)を提供ができる、最も有益な技術になると信じています。